新聞社のAI利用を考えるとコンテンツの作成に目が行きがちですが、新聞社の記者・編集者として働いた経験も踏まえると、そこよりも、効率化の観点で効果が期待できる分野があります。
この記事では、新聞紙面の製作について、生成AIの利用でどのような作業を減らせるかを、国内外の事例から考えてみます。
独Rheinische Post AIを活用した紙面製作
ドイツの新聞Rheinische Post(ライニッシェ・ポスト、以下RP)は、システム会社InterRedの「SmartPaper」を使い、自社サイトのウェブ向けの記事から紙面を作っています。InterRedが2025年5月に掲載した同社担当者へのインタビューによると、ウェブ用の見出しや前文、写真の説明を紙面向けに調整し、記事本文を短くする作業にAIを活用しています。
記事や写真の紙面レイアウトへの配置も自動化しています。出稿側が記事の優先度や写真の扱いを指定すると、AIを組み込んだ製作システムが200種類を超える見本紙面をもとにレイアウト案を作成します。その後、編集者は紙面案を確認し、画面に表示された見出しや本文の変更された部分について、採用するかどうかを判断しているそうです。
2025年5月の掲載記事によると、この仕組みの導入により、RPの地方版1ページのレイアウトにかかる時間は、同社の推計で平均約40分から約15分に短縮したといいます。これはかなりの時短です。なお、RPは、特別な紙面は引き続き人が作る方針も示しています。[RP担当者へのインタビュー]
AIを製作システムの中で使うと、通常の紙面では、見出し案の作成から紙面にレイアウトするまでの作業をかなり減らせる可能性があります。AIで見出しが作れても、紙面製作担当者が、その見出しを別の画面へ転記したり、原文を探して確認したりするのに時間がかかれば、せっかくの時短効果も小さくなります。紙面レイアウトの時間がどれだけ短くなったかを考えると、RPの製作システムは、そのあたりも、担当者の負担を増やさないかたちで工夫がされていると考えられます。
こうした紙面案を確認する際には、それぞれの記事が指定した通りの大きさで載っているか、記事の文字が枠からあふれたり、写真などと重なったりしていないかが、担当者のチェック項目になると考えます。AIは、紙面の枠に記事が入るように本文を短縮することもあるため、記事の重要な要素が削られていないかなどの確認も必要になります。
RPのこのAIを利用した紙面製作の仕組みは、ウェブ記事を落とし込んで紙面を製作するという前提があり、それが、デジタルと紙面の両方を抱える新聞社の記事パブリッシングシステム全体で、記事をより早く、少ない手間で届けることにつながっていると感じます。
国内の編集システムと信濃毎日新聞での生成AI導入
日本の新聞社でこうしたAI活用を考える際には、システムを一新するか、それとも、それぞれの社の既存システムとのかみ合わせを考える必要がでてきます。ここでは、毎日新聞社のMIRAIや日本経済新聞社のCOMETについて、公開資料をもとに、日本の新聞社の仕組みをみていきます。
毎日新聞社は、2017年から2019年に素材管理・アーカイブシステム「MIRAI」を開発しました。同社の2021年の技術論文によると、MIRAIでは紙面とデジタルの基になる記事や写真を「統合素材」として管理しています。同社は2つの旧システムを統合し、保存した写真も紙面とデジタルの両方へ再利用しやすくしました。[毎日新聞社の公開論文、5〜8ページ]
統合素材を共有する利点は、紙面とデジタルの担当者が、相手の編集完了を待たずに、それぞれの媒体向けの加工を進められることです。デジタル担当者はウェブ用の見出しや写真を付け、紙面担当者は掲載枠に合う見出しや長さに整えられます。どちらかの完成記事をもう一方へ流用するだけでなく、共通の素材から両方の記事を作れる仕組みです。
日本経済新聞社の基幹システム「COMET」は、2020年末に本稼働しました。開発したフューチャーアーキテクトは2021年3月の発表で、紙優先からデジタル優先へ編集の流れを変えるため、日経と開発を進めたと説明しています。情報の自動設定や入力補助、複数人での同時編集、編集履歴の共有などを備えています。[COMETの稼働発表]
フューチャーアーキテクトの統合編集システム「GlyphFeeds(グリフィード)」も、記事や写真を共通のデータベースに保存する機能を備えています。同社の技術説明によると、記者、デスク、校閲、整理、デジタル担当者が編集に参加でき、同じ素材から作った媒体別の記事に修正を一括で反映できます。[フューチャー技術ブログ]
日本でも、統合素材にしろ、デジタル優先にしろ、デジタルと紙面の両方の媒体で利用するコンテンツをひとまとめに取り扱うシステムは、RPのようなAIによる調整を編集工程に組み込むための基盤になります。
編集システムに生成AIを組み込む取り組みは、国内でも進んでいます。
フューチャーアーキテクトは2024年12月9日、信濃毎日新聞と共同で、コンテンツ編集に特化した生成AIモデルの研究開発を始めたと発表しました。紙面やウェブに応じた見出し生成、検索用タグの生成、文脈を踏まえた誤りの指摘、過去の記事との食い違いの確認などへの活用を想定した取り組みです。両社は、フューチャーアーキテクトの親会社のAI専門チームとともに実証実験に向けた開発を進め、効果を確かめたうえでGlyphFeedsに組み込む方針を示しました。[研究開発の発表]
フューチャーアーキテクトの2025年12月23日の発表によると、信濃毎日新聞では同月14日に「GlyphFeeds共有サービス」が稼働しました。このサービスには、生成AIで記事本文から見出しと検索用タグを自動生成する機能が組み込まれています。フューチャーアーキテクトは、この機能による作業時間の短縮を見込んでいます。[稼働開始の発表]
紙面への記事レイアウトにAIが効く
ここまでの事例を踏まえ、この記事では、もっともシンプルなスタイルとして、記者とデスクがまず記事をデジタル向けに仕上げ、紙面担当者がそのデジタル向け記事を紙面用に編集し、レイアウトに落とし込む流れを想定します。そのうえで、AIを使うとどの作業を効率化しやすいかを考えます。
デジタル記事を紙面に載せるには、掲載位置や大きさを決め、その枠に合う見出しを付け、本文の長さを調整する作業が必要です。前半で紹介したRPでは、AIを活用した記事や写真のレイアウト、見出しの調整、本文の短縮を、すでに日々の紙面製作に取り入れています。[RP担当者へのインタビュー] この事例を参考に、日本の新聞社の既存システムにAIを組み込むと、どのような使い方が考えられるかを見ていきます。
紙面レイアウトでは、担当者が記事の優先順位や写真の扱いなどを指定し、AIを活用して紙面案を作る方法があります。RPでは、あらかじめ用意した見本紙面や、記事・写真の配置ルールに沿って、AIを使った紙面レイアウトを行っています。日本の新聞社でも、中心となる記事を大きく扱う、関連する記事を近くに置く、残りのスペースに短い記事を収める、といった指示をもとに、紙面案を作らせる使い方が考えられます。担当者が記事や写真の位置、大きさを細かく調整する手間を減らし、できあがった紙面案でニュースの重要度や記事同士の関係が伝わるかを確認して、必要なら修正します。
紙面のレイアウトが決まり、見出しに使える字数やスペースが固まったら、生成AIで記事の内容に沿った見出し案を複数作らせます。担当者は、案を参考に自分で考えたり、選んだ案に手を入れたりして、見出しを決めます。
記事本文も、掲載スペースに収まるように、一部を削るなどした短縮案を生成AIで作れます。担当者が必要な情報が残っているかを確認できるよう、原文と短縮案を並べ、変更された部分を分かりやすく表示する機能も組み込んでおきます。
記事本文を紙面に配置する際には、禁則処理やルビ、文字間の調整など、既存の組版システムの機能を利用します。AIを使った紙面レイアウトでも、これらの機能を引き続き使います。日本語の組版ルールは、W3C「日本語組版処理の要件」にもまとめられています。
このように、実装例のあるレイアウト、見出しの調整、本文短縮を、自社の製作システムの中でつなぐことが、紙面製作の効率化につながります。別の画面で作ったAI案を転記したり、原文を探し直したりせず、紙面案と記事を見ながら修正できることも、実際の作業時間を減らすうえで効果が期待できます。
校閲や記事手直しへの対応にもAIを生かす
編集システムにAIを組み込むなら、紙面への配置に加えて、校閲・校正、ファクトチェック、原文の手直しへの対応にも活用したいところです。これらは紙面とデジタルに共通する作業であり、確認する記事が増えるなかで、担当者の負担を減らすためにも重要です。
校閲・校正では、自社の用字用語の基準に沿わない表記や脱字、見出しと本文の食い違いなどをAIで洗い出し、担当者が直すかどうかを判断する使い方が考えられます。出稿やデスクの確認の段階でこうした点を直せれば、その後の校閲での指摘や、編集済みの記事を直す手間も減らせます。AIの指摘にどう対応したかを記録し、必要なときに記事の画面から確認できるようにしておけば、別の担当者が同じ内容を調べ直す手間を減らせます。
記事内容の事実確認、いわゆるファクトチェックについては、過去の報道や公式資料と記事を照らし合わせ、食い違う記述とその根拠をAIで示す使い方が役立つと考えます。ただし、食い違いがあっても、記事が誤っているとは限りません。新たな事実を報じるスクープだったり、過去の報道から状況が変わっていたりする場合もあります。学習した知識だけで現在の事実を判定させず、検索などで参照した資料の根拠となる記述と日付を表示し、担当者が記事と照らして、直すべきかどうかを判断する形です。
出稿部が情報の追加・更新などで原文を手直しした際には、編集システムで変更された部分を示し、AIで媒体別の修正案を作る使い方もあります。たとえば催事の参加予定人数が更新された場合なら、紙面用に短縮した本文やウェブ用の見出し、写真説明などに更新前の人数が残っていないかを確認し、その部分の修正案を示します。担当者が手直し前後の原文と修正案を見比べられれば、影響する部分を探し、同じ変更を媒体ごとに反映する負担を減らせます。
紙面製作へのAI利用は、すでに実用化の段階にあります。日本の新聞社でも、既存の編集システムを生かしながら、デジタル向けに仕上げた記事を紙面用に加工する手間を減らし、紙面とデジタルの両方に関わる確認や手直しの負担も軽くできると考えます。
AIを導入する際には、担当者が案を確認して手直しする時間も含め、全体の作業がどれだけ減るかを、自社の記事や紙面で確かめたいところです。記事の品質と導入・運用費用も見ながら、日々の仕事に組み込んでいく。何を伝え、何を直すかという人の判断を保ちつつ、編集工程全体の負担を減らせることに、新聞社がAIを導入する意義があると考えます。
- InterRed, “How the Rheinische Post is using AI to build its print pages faster”(2025年5月26日)
- 若月竜司(毎日新聞社)「『MIRAI』の開発と今後の展望」(日本新聞製作技術懇話会 会報 通巻270号・2021年12月1日/5〜8ページ)
- フューチャー「日本経済新聞社の新基幹システム『COMET』が2020年末に本稼働」(2021年3月16日)
- 武田拓己「【メディア業界】新聞社の編集業務とフューチャーの取組み」フューチャー技術ブログ(2022年8月10日)
- フューチャーアーキテクト「フューチャーアーキテクト、信濃毎日新聞と共にコンテンツ編集に特化したAIモデルの研究開発を開始」(2024年12月9日)
- フューチャーアーキテクト「フューチャーアーキテクト『GlyphFeeds共有サービス』が信濃毎日新聞で稼働開始」(2025年12月23日)
- W3C「日本語組版処理の要件(Requirements for Japanese Text Layout)」