Blog 2026.08.28

Sunoは従来モデルをすべて「退役」へ

訴訟と提携のなかで変わる音楽生成AIの利用条件

歌詞や曲調を入力すると、歌唱と伴奏を含む音源を生成できるSunoが、新世代モデルの公開時に、これまでのモデルをすべて「退役」(retire)させると発表しました。ここでいう退役は、従来モデルによる新たな楽曲生成を終了するという意味です。すでに作った曲はライブラリーに残り、引き続き再生・共有できます。

Sunoは音楽業界と共同で新モデルを開発し、利用規約とダウンロード条件も変更します。新モデルの名称と公開日は、2026年8月26日時点では公表されていません。9月3日は規約とダウンロード条件の発効予定日で、新モデルの公開日ではありません。

Sunoは、学習用音源の取得方法やAI学習、生成音源をめぐり、複数の訴訟を抱えています。一方、大手音楽会社のWarner Music Group(WMG)とBMGとは、それぞれ提携を結びました。公開資料からは、Sunoが権利者への対応を見直し始めたことが分かります。

※本稿は2026年8月26日時点の公開資料に基づきます。

新モデル公開と同時に従来モデルを「退役」

Sunoは8月10日の発表で、音楽業界と開発した新世代モデルを近く公開し、その時点で従来モデルをすべて退役させると説明しました。8月26日時点のRelease Notesに掲載された最新の音楽モデルはv5.5です。新世代モデルが公開されれば、現在のv5.5も退役の対象になります。

従来モデルで作った曲は、モデルの退役後もライブラリーに残り、再生・共有できます。ただし、その曲の途中から続きを生成する「Extend」や、元のメロディーを残して曲調を変える「Cover」を使う場合、新たに生成する部分や別バージョンには新モデルが使われます。その結果、元の曲と比べて歌声やアレンジが変わり、制作者が意図した仕上がりにならないことがあります。

Sunoは、従来モデルでの作り方に近い方法も用意し、詳しい内容は新モデルの公開時に示すと公式FAQで説明しています。

従来モデルで同じ歌声やアレンジを使ってきた一部の制作者からは、モデルの退役を懸念する声も出ています。AI音楽プロジェクト「MIKU AETHER」は自身のnoteで、v4.5、v5、v5.5を作品によって使い分け、従来モデルの退役を警戒していると説明しました。AI音楽とミュージックビデオを制作するNaoも、歌声や音楽スタイルを引き継ぐために使われるSunoのPersonaやVoiceについて、キャラクターの声が変わる可能性を指摘しています

音楽生成AIの権利関係とドイツ・米国の訴訟

音楽では、曲や歌詞には、作詞家・作曲家や音楽publisher(楽曲の著作権を管理し、利用を許諾する事業者)が持つ、または管理する権利があります。録音された音源にはレコード会社などの権利があり、歌唱や演奏には歌手・演奏家の権利があります。アーティストの氏名、肖像、声などを使う場合は、本人の同意や契約も必要です。

Sunoは複数の訴訟の対象となっています。

作詞・作曲者の権利を管理するドイツの団体GEMAは、Sunoを著作権侵害で訴えました。ミュンヘン第1地方裁判所は7月31日、GEMAが管理する「Forever Young」「Daddy Cool」など6楽曲について、差し止め、情報開示、損害賠償請求を大部分認めました。歌詞自体の侵害は、この事件の争点に含まれていません。

裁判所の公式発表によると、裁判所は、SunoがYouTubeのダウンロードを防ぐ技術を回避するストリーム・リッピングで対象作品を取得し、複製したと認定しました。米国で行われたAI学習時の複製には米国著作権法を適用し、この事件の事実関係ではフェアユースに当たらないと判断しました。

裁判所は、ドイツ国内のサーバーに保存されていたv3.5とv4に、対象作品が再現可能な形で含まれている状態をドイツ著作権法上の複製と認定しました。ドイツで生成された音源についても、無断の複製と公衆への伝達に当たり、利用者ではなくSunoが責任を負うとしています。米国での学習、ドイツでのモデル保存と出力について、行為地に応じて適用法を分けた判断です。

米国では、録音物の権利を管理するUMG Recordings、Capitol Records、Sony Music EntertainmentがSunoとの訴訟を続けています。3社は、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく請求を追加するよう求めました。

マサチューセッツ連邦地裁の8月18日命令には、Sunoが証拠開示で、YouTubeから音源を取得し、YT-DLやYT-DLPを使ったと回答したことが記載されています。裁判所は、修正訴状の記述を真実と仮定すれば、DMCA請求が成立し得るとして、請求の追加を認めました。裁判はまだ継続中です。

独立系の音楽publisherであるRound Hill Musicも8月17日、Sunoとデータ取得事業者Bright Dataをカリフォルニア北部地区連邦地裁に提訴しました。同社が権利を持つ、または管理する500曲を代表例として挙げています。

訴状は、Sunoが楽曲を無断で取得・複製し、学習用データセットやサーバーに保存してAI学習に使ったとして、Suno自身が著作権を侵害した「直接侵害」を主張しています。Bright Dataについては、大量の楽曲や歌詞を集めるウェブ収集ツールや、接続元を切り替えるプロキシ、自社で集めたデータセットをSunoに提供し、侵害を助けた「寄与侵害」の責任があると主張しています。

Round Hillはさらに、SunoとBright Dataが、ログイン認証、有料会員向けのアクセス制限、CAPTCHA、ボット検知などを回避して、音楽配信サービスや歌詞サイトから作品を自動収集したと主張しています。訴状は、こうした制限の回避を「技術的保護手段の回避」と位置づけています。また、収集したデータから、曲名、作詞・作曲者名、著作権者や音楽publisherの名称、録音物の識別番号であるISRCコード、著作権表示などの「著作権管理情報」を取り除いたことも問題にしています。

WMG、BMGとの提携と新モデル開発

一方、Sunoと音楽会社の間では、提携の動きも出ています。

WMGとSunoは2025年11月、両社間の訴訟で和解し、新たな提携を発表しました。WMGは、この提携により、同社が契約するアーティストやソングライターが、自分の氏名、画像、肖像、声、楽曲をSunoの新しい生成曲に使わせるかどうかを選べるようにすると説明しています。利用を認める場合も、何をどのように使わせるかは、アーティストやソングライター本人が決められます。Sunoは、こうした利用について権利者へ対価を支払うと説明しています。新モデルについては、音楽会社から許諾を得た音楽を使って開発するとしています。

Sunoは同じ発表で、許諾を得た音楽を使って開発する新モデルを2026年に公開し、従来モデルを「退役」させる方針を示しました。当初の発表では、将来、無料プランで作った曲をダウンロードできなくするとしていました。その後、Sunoは2026年8月10日、無料プランでも1アカウントにつき合計7曲まで試用枠としてダウンロードできるようにすると発表しました。有料プランには月間上限を設け、追加分を購入できるとしています。

BMGは2026年8月12日、Sunoとの世界的な提携を発表しました。BMGは、アーティストとソングライターが参加を選べる仕組みとし、その権利を保護するとともに、音楽の利用に対価が支払われると説明しています。BMGが管理する録音物と出版作品の過去の利用をめぐる問題も解決するとしました。BMGの発表には、Sunoのダウンロード上限についての説明はありません。

入力制限、ダウンロード上限、生成曲の識別

Sunoは、特定のアーティストを指定したり、著作権で保護された楽曲を求めたりするプロンプトを認めていないと説明しています。利用者がアーティスト名を入力すると、Sunoはその名前を削除し、音楽の特徴を表す言葉で入力するよう促します。利用者がアップロードした音源や歌詞については、Audible MagicやMusixmatchの技術を使い、既存作品と照合しているとしています。

新規約も旧規約と同じく、第三者の権利を侵害する素材や、利用する権利のない素材を入力し、生成に使うことを禁じています。Sunoは8月6日、利用者向けにルールを簡潔に示す「Community Guidelines(コミュニティガイドライン)」も改定し、権利のない素材のアップロードや既存曲の再現、実在する人物の声や肖像の無断利用を禁止事項として明記しました。同社は、従来からの方針を分かりやすく示すための改定だと説明しています。

9月3日から、無料プランでは、1アカウントにつき合計7曲までダウンロードできます。この枠は月ごとに更新されません。利用規約は、無料枠を増やすために複数のアカウントを作ることを禁じています。無料プランでダウンロードした曲は、個人・非商用利用に限られます。有料のProプランでは月20曲、Premierプランでは月60曲までダウンロードでき、追加枠も購入できる予定です。Premierプランの利用者がSuno Studioから書き出す場合には、上限を設けないとしています。

Sunoは、不正利用を目的とした生成曲の大量ダウンロードを防ぐため、上限を設けると説明しています。多くの生成曲を外部の音楽制作ソフトで比較・加工するためにダウンロードする場合は、この制限がかかる可能性があります。

9月3日に発効予定の利用規約でも、従来からの扱いと同様、有料のProプランまたはPremierプランで作った生成曲には商用利用の権利が認められ、プランを解約した後もその権利は残ります。新規約は、商用利用の対象をSunoの正規のダウンロード機能で保存した生成曲に限ると明記しました。Sunoのダウンロード機能を使わず、再生中の曲を録音したり、配信中の音声データを保存して音源ファイルとして取り出したりすることも禁止しています。

ここでいう商用利用は、Sunoと利用者の間の契約に基づくものです。Sunoの規約は、生成曲に著作権が成立することは保証していません。生成曲を配信サービスなどで使う場合は、そのサービスの規約や、第三者が持つ権利も関係します。

さらにSunoは8月6日、Sunoで生成された曲を外部でも識別できる仕組みを導入し始めたと発表しました。

Sunoは現在、新たにダウンロードされる曲に「コンテンツクレデンシャル(Content Credentials)」を付与しはじめています。これは、デジタルコンテンツの作成元などを機械で読み取れる形で記録するC2PAという共通規格に基づくものです。音源ファイルには、Sunoで生成されたことが記録されます。なお、導入前にダウンロードされたファイルにさかのぼって付与することはないとしています。

Sunoは、音源ファイルや公開URLから認証情報を確認できる検証ツールも一般公開しました。無料APIもあり、納品先や配信事業者も、技術的には確認作業に組み込めます。このツールは、Sunoが音源ファイルに付けた認証情報を読み取るものです。

Sunoは今後、人の耳では気づきにくい識別信号を音に埋め込む「音声透かし」も導入する計画です。

Sunoは2024年から、Audible Magicのフィンガープリント技術を使い、利用者がアップロードした音源を、権利者が登録した既存の録音物と照合して、無許諾のアップロードを防いでいます。今回の方針は、Sunoの生成曲を外部のサービスでも識別できるよう、フィンガープリント技術を導入するものです。Sunoは、配信事業者と連携し、不正利用対策に使うと説明しています。

9月3日に発効予定の新しい利用規約では、Sunoが識別情報に、作成元、利用プラン、正規の方法でダウンロードされた曲かどうかを記録する場合があると定めています。規約で認められた利用に伴う編集や形式変換は可能ですが、作成元や利用プランなどを隠す目的で、識別情報を削除・変更したり、読み取れないようにしたりすることを禁じています。

Sunoで作った曲を企業などへ納品した場合、納品先は、Sunoが提供している検証ツールを使えば、音源ファイルの認証情報からSunoで生成された曲であることを確認できます。

音楽業界では、Spotifyが、アーティストからレーベルや配信事業者を通じて申告されたAI利用を曲のクレジット欄に表示する試験運用を始めました。Deezerは、独自技術で完全にAI生成された音源を判定し、AI生成曲であることを表示しています。AI生成曲を識別するため、生成サービス、権利者側、配信サービスが、それぞれ異なる仕組みを使い始めています。

音源の取得から対価の分配まで

Sunoをめぐる訴訟や提携、サービスの変更は、次の五つの論点に整理できます。

  1. 音源の取得と学習:どの音源を、どのような経路で取得し、学習に使うか
  2. 提供するモデル:どのような許諾に基づくモデルを提供し、いつ退役させるか
  3. 利用者の入力:どの音源、歌詞、声、アーティスト名を入力できるか
  4. 生成曲の利用:どのプランで、どの形式・回数までダウンロードや配信ができるか
  5. 記録と対価の分配:生成曲をどう識別・記録し、音楽の利用に対する対価を誰にどう分配するか

音楽会社との提携が進むなか、アーティスト、ソングライター、演奏家からは、自分の音楽をAIに使わせるかどうかを決める権利と、利用に対する対価をめぐる要求が続いています。

Songwriters of North America(SONA)は2026年6月、音楽団体の国際的な連合に加わり、アーティストやソングライターが自分の音楽をAIに使わせるかどうかを決められること、公正な対価、透明性を求める共同声明を出しました。

米国とカナダの音楽家組合American Federation of Musicians(AFM)は、Warner Records、Atlantic Recording、Universal Music Groupの3社を、労働協約に違反したとして提訴しています。AFMは、AI学習や音楽生成への利用が労働協約上の「New Use(新たな用途への利用)」に当たり、組合への通知と演奏家への追加補償が必要だと主張しています

WMGとBMGはSunoとの提携で、アーティストやソングライターが自分の音楽をAIに利用させるかどうかを選べることと、音楽の利用に対価を支払う方針を示しました。Sunoは、許諾を得た音楽で開発する新モデルの公開に合わせて従来モデルを退役させ、生成曲のダウンロード条件や識別方法も変えます。

Sunoでは、権利者との争いと交渉が、過去に使った学習素材の扱いから、今後どのモデルを提供し、生成曲をどのような条件で利用させるかへ広がりました。権利者からの要求が、Sunoのモデル開発とサービスの方針を変え始めています。

音楽、記事、画像、映像では、権利の内容や契約の形が異なります。Sunoの方針転換は音楽生成AIの事例ですが、生成AI企業が、学習元となるコンテンツの権利者への対応を変え始めた動きの一つでもあります。権利者との契約が、AI企業のモデル開発やサービス内容を実際に変えることを示しています。

参考にした主な資料
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